バンコクのタニヤ通りを夜に歩いていると、妙にダンディーな美容室があるのですが、ご存知でしょうか?
タニヤプラザを背にして「世界の山ちゃん」の角を路地に入ってすぐのところに、路上の右側に小さなプレハブ小屋が立っていて、床屋のクルクル回転灯があるので見たことがあるという人は多いと思います。
大きさは畳2畳を縦につなげたという茶室かと思ってしまうサイズです。表通りに面した入り口はガラスの引き戸になっていて中が見えますが、背中合わせになって2つの客席があるだけで、美容師がそれぞれの後ろに立つと、もう一杯になってしまうキャパシティです。
この店の名前は「Barber Shop DAVID NO.5」(バーバーショップ・デイビッド・ナンバー5)です。
屋根からぶらさがる万国旗も鮮やかですが、なにより目をひくのは、表の壁に並べてある、カットイメージ写真です。色々なアメリカ人の横顔などのモノクロのモデル写真が並んでいるのですが、どれもロカビリー調というか、アメリカ50年代西海岸、みたいな写真です。みんなプレスリーみたいなリーゼントで前髪がとがっているか、分け目に鉛筆が置けそうなくらいビタッとした見事な七三分けのモデルばかりなのです。レニングラード・カウボーイズもびっくりです。ガイコツがサングラスをかけているポスターもかっこいいです。
この店に行くのはダンディーさを目指す人しか認められないような気がします。営業時間が午後3時から翌朝4時までという時間帯であることも、まるで、大人しか来てはいけないぜ、と言われているかのようです。
ここは大変な人気だそうで、バンコクの若者はわざわざ遠くからバイクでここまでカットにくるそうです。たしかに、夜中1時にここを通っても、いつでも席が埋まっていて、表に順番待ちのお客さんが座っているのです。(といっても2席で満席だが。)
とても狭い店内!客二人で満員!
私もダンディーになるため、勇気を出してこの店に突撃することにしました。
何回か通りかかって様子を見ていたのですが、日曜日の夜9時頃に奇跡的に、1席空いているのを見つけて、おそるおそる、「カット、オケカップ?」(カット大丈夫ですか?)と店の前にいた、髪を刈り上げたお兄ちゃんに声をかけます。
「いつでもオッケーだぜベイベー」(多分)と軽いノリで言って、兄ちゃんは扉を開けました。
私が席に座ると、持っていたカバンを前にかけるように言われます。店内はレンガ調の壁紙が貼ってあって星条旗が飾られています。タイのJ-WAVE風のラジオがかかっています。鏡もゴージャスな金色の縁取りです。
「今日はどんなカンジでキメていくかい?」(多分)とお兄ちゃんが訊いてきたので、私は、どうしようかと一瞬迷いましたが、店内の壁にかかっているダンディーなモデル写真に影響されてしまい、「あんな感じでハンサムにしてください。」と思わず言ってしまいました。
ナイロンエプロンをかけてもらい、まずは霧吹きで全体を湿らし、頭頂部をまとめてクリップでとめると、電動バリカンでサイドを刈り上げていきます。最初は左側を刈り上げたのですが、次に右側を刈るときは、店内が狭く理容師が右側に回り込めないので、逆に私の座っているイスの方を右回転させて理容師の正面に私の右頭部をもってくるという荒業には、「俺はろくろに載った壺か!?」と思いましたが、なるほどと感心させられました。
このサイドの刈り上げにはかなり神経をつかってくれて、一度刈り上げた後に、パウダーを髪にかけて目印をつくり、もう一度刈って微調整をしてくれるという仕事ぶりです。これだけで20分間はかけてくれました。続いて頭頂部も櫛を当てながらすこしハサミでカットしてくれます。微妙に長さを切り分けて、切り際が自然になるようにしてくれています。
切った髪は洗えないので、吹き飛ばす!
狭い店内には当然、洗面台はありません。かといって10分カットみたいにバキューム器のホースも見当たらないので、切った髪はそのままかな、と思っていたのですが、なんと、お兄ちゃんは、ドライヤーを私の頭に当てると強風で、切った髪の毛を吹き飛ばす、というダイナミックなやり方で後処理をしてくれました。
これで終わるかと思ったら、兄ちゃんはカミソリを取り出すと「剃りこみはドコまで攻めてく?」(多分)と訊いてきます。「ガンガン行ってみよう!」と私が伝えると、兄ちゃんは私の額に指でクリームをススーと伸ばすとかなり奥まで剃りはじめ、耳の後ろや襟足もきれいにしてくれました。
さすがに、ヒゲ剃りまではしてくれませんでしたが、久しぶりに耳のあたりが涼しくなりました。
こうしてできあがった、バンコクのカリスマ美容師の作品が、こちらです。
お兄ちゃんはこちらにウインクすると「YOUはナイスガイだぜ!」とほめてくれました。
いわゆる、ツーブロック風の髪型なのですが、これは彫りの深いワイルドな顔の人がやるとエグザイル風になれるのですが、顔が薄くて色白の思い切り日本人顔の私がやると普通は、「鳥肌実」(日本の昭和初期のサラリーマンみたいな感じ)になってしまうのです。でも、このデイビットNo.5の美容師の腕のおかげで、第二次大戦のドイツ軍の下っ端兵士風くらいにはみえてくる気がするので、たいしたものです。
結局、50分間ほどかけて丁寧な仕事をしてくれました。料金は250バーツと、かなり安いです。
(タニヤプラザの理髪店は顔ぞりなしで350バーツ)
タイでモテるためには、タイの腕利きの美容師にセットしてもらうというのが一番かもしれません。昼間は仕事や観光で忙しいという人は、夜中に散髪できる店は少ないので、便利だと思います。タイで美容室や理容室を開業しようかなという人も地元の人気店をリサーチするという意味でも、面白いかと思います。
シーロム通りのサラデーン駅前と、シーロム通りを400m程サトーン側へ進んだ路上の屋台に支店があります。
【ショップDATA】
店名 「Barber Shop DAVID NO.5」
営業時間 3:00P.M.~4:00A.M.
電話 093-001-2371
会話 日本語不可 英語片言。